今は一体、何月何日の何時なんだろうか。
何となく意識はあるが、それが夢になのか現実なのかもはっきりしない。
入院先のここはごく僅かの親族以外には知らせてない。
プロレスに人生を捧げてきたが、赤鬼青鬼らプロレス者達には最後は弱った情けない姿を見せずに一生を遂げる。
これが、井上イズム。
これでいいのだ。
しかし、何か足りない気がする。
何だろう。
悔いが無い様に、プロレスについて書ける事は全て書いてきたはず。
話せる事もすべて話した。
PRIDEラスベガスなど観たいものもあったが、こういう状態になれば、観れないのもしょうがない事はわかっていたので問題はない。
大晦日のPRIDEやK-1も同じ。
もう、充分だ。
何だろう。
薄々はわかっている。
いや、はっきりわかっているけど、考えないようにしてるだけだ。
無理に決まっている。
というか、自分からそれを求める事は自分の美意識に反するから。
コツコツコツと、廊下に足音がした。
と、突然、病室のドアが開き、背の高いあごが尖った大男が入ってきた。
「元気ですか!」
耳元で、大男はささやくように言った。
聞き覚えがある声。
いや、忘れようが無い声。
「元気です...」
驚きながら、目を閉じたままかすれる声で答えた。
「今まで応援してくれて本当にありがとう、井上編集長。」
涙を浮かべながら、大男は語りかけた。
この道を行けばどうなる事か。
あやぶむ無かれ。
あやぶめば道はなし。
踏み出せば、その一足が道となる。
迷わず行けよ、行けばわかるさ。
「いきますか。1,2,3、ダー!ありがとー!」
そう言って、大男は病室を出て行った。
やっぱり、来てくれたんだ。
猪木が来てくれたんだ。
自分のプロレス人生は、猪木で始まり猪木で終わる。
足りなかった物が、最後に埋った。
涙が頬を伝った。
もしかしたら、今のは現実でなく夢なのかもしれない...
しかし、現実に感じた事だから、たとえ夢であっても充分に満足だ。
これで自分のプロレス人生は完結した。
同時に、井上義啓の人生も無事完結出来た...
うすれゆく意識の中で、そう思いながら...
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